最近の研究成果(2015年4月28日)

RNA合成酵素がRNAの長さを測る物差しとして機能

- 鋳型に依存しない RNA合成の動的反応分子機構を解明 -

2015年4月28日

バイオメディカル研究部門
RNAプロセシング研究特別チーム
研究チーム長 富田 耕造

ポイント

  • いくつかの細菌ではtRNAの3’末端のAヌクレオシドは、核酸性の鋳型を用いないA付加酵素によって付加
  • Aが付加される過程で酵素がtRNAのL字型3次元構造を認識し、RNAの長さを測定
  • 鋳型を用いなRNA合成酵素がひとつのヌクレオシドのみ付加する分子機構を解明
  • 同様な酵素が関与する低分子非コードRNAなどの代謝、発現分子機構解明へ期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)バイオメディカル研究部門RNAプロセシング研究特別チーム富田 耕造 研究チーム長、産総研特別研究員 山下征輔らは、蛋白質合成に必要なtRNAの3’末端に存在するCCA配列中の最末端のAヌクレオシド配列が核酸性の鋳型を用いないA付加酵素によって付加される分子機構を解明した。

A付加酵素によるRNA合成(A付加反応)を表した酵素および酵素-tRNA複合体などを含む十二種類の構造を解析し、得られた構造を基に機能解析を行った。その結果、酵素にはtRNAの結合部位が一か所のみ存在し、L字構造をとるtRNAの肘の部分が酵素上のくぼみに結合することがわかった。そして、この酵素のくぼみを起点として酵素がtRNAの上部のRNAへリックスの長さを測り、3’末端のAがかけたtRNAのみに一つのAヌクレオシドのみを付加することができることが明らかになった。この結果は、同様な酵素群が関与する高次生命現象発現を支配する低分子RNAの代謝、発現制御分子機構の解明の基盤となる成果である。本研究は独立行政法人 日本学術振興会(JSPS) 最先端次世代開発支援プログラム「RNA合成酵素の反応制御機構の解明」、基盤研究(A)「RNA 合成酵素複合体の機能構造解析」などの一環として行われた。また、X線結晶回折データは大学共同利用機構 高エネルギー加速器研究機構 (KEK)のビームラインを利用して取得した。本成果は、2015年4月23日(米国東部時間)に、米国セル出版社 Structure誌のオンライン版に掲載された。

 

鋳型非依存的にRNAを合成するA付加酵素とtRNAとの複合体の構造。酵素がtRNAのL字構造の上部の長さを測る:(リボン)、tRNA(青:スティック)

研究の社会的背景

RNAはその鋳型であるDNAから転写された後、多岐にわたるプロセスを経て機能をもったRNAへと加工される。このプロセスの中に、RNAの3’末端に鋳型で あるDNAには存在しない配列が付加されるプロセスがある。RNA3’末端への鋳型に依存しないRNA配列の付加は近年、高次生命現象を支配する低分子RNA(マイクロRNA、スプライシングに関与する低分子RNA)などの発現、代謝、機能発現を制御していることなども報告されてきており、遺伝子発現、高次生命現象発現において重要な役割を担っていることが知られている。核酸性の鋳型を用いずにRNAの末端を合成するRNA合成酵素の詳細な反応 分子機構を解明することは、高次生命現象を支配する機能性RNA分子による遺伝子発現制御機構の理解、発現制御可能な薬剤の開発の基盤提示において重要である。

研究の経緯

産総研は、RNAを合成する酵素群の反応分子機構、制御機構に関する基盤研究を推進してきた(プレス発表など:2006年10月16日、2008年7月8日、2009年10月5日、2010年8月24日、2011年5月9日、2012年1 月16日、2012年8月10日、2014年1月3日)。今回、tRNAの末端に保存されているCCA配列の最末端のAヌクレオシドのみを付加する細菌のA付加酵素に注目した。A付加酵素が核酸性の鋳型を用いずに末端のAが欠けたtRNAのみにAヌクレオシドを付加する様子を表した複合体、および基質とはならない末端のCAが欠けたtRNAなどとの複合体のX線結晶構造解析、機能解析を行い、A付加酵素の反応分子機構を明らかにすることを目指した。

研究の内容

全てのtRNAの3’末端にはCCA配列が存在する。tRNAの3’末端のCCA配列は、アミノ酸がその末端に付加されるために必須であり、また、蛋白質合 成装置であるリボゾーム上での蛋白質合成反応にも必須な配列である。CCA配列は、全ての生物で見いだされるCCA付加酵素(活性)によって、CTPと ATPを基質として用いて付加、合成される。最近では、CCA付加酵素が機能不全のRNAの品質管理にも関与していることや、遺伝子変異と疾患と関連が報告されてきている。

ほとんどの真正細菌では、ひとつの蛋白質でCCA配列を合成するが、進化的に古い真正細菌ではCCを付加するCC付加酵素とAを付加するA付加酵素で共同的 にtRNAのCCA配列が合成されることが発見されていた(図1)。しかし、真正細菌のCC付加酵素とA付加酵素の特異性の違いの分子基盤についても未解決であっ た。
本研究では細菌由来A付加酵素がtRNAの末端のAヌクレオシドのみを付加する反応を素過程に分離し、それらの各反応における複合体の詳細なX線結晶構造解析を行った。また、基質ならないCA配列が欠損したtRNA、ヌクレオチドとの複合体、tRNAのアクセプターへリックスの長さを変えたtRNAなどとの複合体のX線結晶構造解析をも行った。さらに、構造に基づいた生化学的機能解析を行った。

その結果、以下の1)~4)のことが判明した。
1) A付加酵素はタツノオトシゴで言い表せる構造をとっており、ヘッド、ネック、ボディー、テイルの4つのドメインからなり、触媒活性ポケットにはCTPもATPも結合できる。

2)L次型構造をとるtRNAのアミノ酸を受容する末端を含むアクセプターへリックス領域のエルボ領域は酵素のボディー、テイルドメイン間のくぼみに入りこみ強く相互作用している。また、tRNAの3’末端はヘッドとネックの間の活性触媒ポケットに入り込んでいる(図1)。

3)末端のAが欠けたtRNAの末端はヘッドとネックの間の活性触媒ポケットに入り込み、その末端は活性触媒部位に届いており、ヌクレオチド結合ポケットの大きさと形はATPのみに適したものになっていた(図2)。

4)一方、末端のCAが欠けたtRNAは、末端のAが欠けたtRNA同様にアクセプターへリックス領域のエルボ領域が酵素のボディー、テイルドメイン間のくぼみに入りこみ強く相互作用していた。しかし、tRNAの末端は、活性触媒ポケットにとどかず、CTPやATPがポケットに結合しても、ヌクレオシドを付加することができない(図3)。

これらの解析から、A付加酵素は、酵素のボディー、テイルドメイン間のくぼみを起点としてtRNAの上部のRNAへリックスの長さを正確に測り、3’末端のAがかけたtRNAのみに一つのAヌクレオシドのみを付加することができる分子機構が明らかになった。

 

図1 A付加酵素と末端のAが欠けたtRNAとの複合体構造: tRNAのアクセプターへリックス領域のエルボ領域は酵素のボディー、テイルドメイン間のくぼみに入りこみ強く相互作用。リボンモデル(左)、表面電荷モデル(右)。

 

図2 A付加反応構造: ATPはA付加酵素のアルギニン(Arg)、アスパラギン酸(Asp)とワトソンークリック様水素結合で相互作用する。tRNAの末端のCは活性触媒残基に近いところに位置する。

 

図3 A付加酵素と末端のCAが欠けたtRNAとの複合体(マゼンダ)。末端のCAが欠けたtRNA(tRNAC)は、酵素上の末端のAが欠けたtRNA(tRNACC; シアン)と同じ位置に結合 (上)。A付加酵素と末端のCAが欠けたtRNAとATP (下左) (あるいはCTP (下右))との複合体構造:tRNAはtRNA末端のCは活性残基に届いていない。

 

図4 A付加酵素がtRNAの末端のAのみを付加し、CCを付加しない分子機構

 

本研究は独立行政法人 日本学術振興会 最先端次世代開発支援プログラム「RNA合成酵素の反応制御機構の解明」、基盤研究(A)「RNA 合成酵素複合体の機能構造解析」(ともに研究代表者:富田 耕造)の一環として行われ、また、X線結晶回折実験は大学共同利用機構 高エネルギー加速器研究機構 の物質構造科学研究所、放射光科学研究施設(Photon Factory)のビームラインBL-1A、17Aなどを利用して取得した。

今後の予定

近年、核酸性の鋳型を用いないRNAの3’末端のRNA合成は高次生命現象を支配する低分子RNAなどの発現、代謝、機能発現に関与していることなども報告されてきている。今後、マイクロRNA、スプライシングに関与する低分子RNAなどの代謝、成熟化にかかわる 核酸性の鋳型を用いないRNA合成酵素群の詳細な反応分子基盤を解明し、これらのRNAの発現制御機構の解明を目指す。

 

関連原著論文

Yamashita S et al., Structure Vol 23, No5,http://dx.doi.org/10.1016/j.str.2015.03.013 2015
Yamashita S et al., Structure Vol. 22, No 2, p315-325, 2014
Toh Y et al., Structure Vol.19, No 2, p232-243, 2011
Toh Y et al., EMBO J. Vol. 28, No 21, p3353-3365, 2009
Toh Y et al., EMBO J. Vol. 27, No 14, p1944-1952, 2008
Tomita K et al., Nature. Vol. 443, No 7114, p956-960, 2006
Tomita K et al., Nature. Vol. 430, No 7000, p700-704, 2004
Tomita K & Weiner AM, Science Vol. 294, No 5545, pp1334-1336, 2001

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所
バイオメディカル研究部門 RNAプロセシング研究特別チーム
研究チーム長 富田 耕造
TEL: 029-861-6085
E-mail:kozo-tomita@aist.go.jp

 

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